私とシロとチャと

続き...
一部、犬好きな人には辛い記述があるが、私が突如遭遇した状況に鑑み、了として頂きたい。

Bivyのジッパーを開ける刹那、走馬燈のように考えたことは、
熊か?でも熊鈴を着けた熊はネギを背負った鴨より不可解だ...だからこれは熊ではないだろう。
じゃぁ猪?猪突猛進で来られたら厄介だが...
など考えながらジッパーを開け、点けたライトに目が順応する間も無く、コカコーラの空き瓶色のビー玉を日に透かして見たような薄緑の光の玉が目の前に浮んでいたわけだ。正直なところ驚いている間もなかった。が、Petzl Tikka XPをハイビームに切り替えて遠くからの輝きを確認した頃には近くにある二つの反射の主が分かった。
こりゃ犬だ。
犬が一頭、1m以内にいる。もう一頭は4mくらいか。なんだ、犬か...と思ったが、近くいる一頭が傍若無人にグイグイと顔を近づけてきた。ん?犬、あ”ヤバイ!野犬は猪よりも質が悪いかもしれない。二頭が連携して狩を始めたら厄介だぞと、私の中でアラートが鳴った。こっちは体をBivyに埋め込んで片肘着いて上半身を半分起こしている不安定な状態だ。寝床から体を抜く間もなく犬はどんどん近づいてくる。をいをい、と思ったがヤツはこっちの状態にはお構いなしだ。もはや30cm、私の規定する生物どうしの警戒距離を越えいる。ヤツがその気になったら、鼻を囓るでも頬を舐めるでも一動作で出来る距離にある。もーだめだ。選択も猶予もならない。
テェェイ!空いている手でとっさに犬の頭に拳固を呉れてやった。片肘で体勢が悪くて力が入らないから大した打撃は与えられない。チェ!ヤツは頭に拳固も驚きもせずに、しかし、ちょっとだけ悲しい、同時に少し媚びた目をして首をすくめ腰を落とした。おや、吠えないし反撃もない。見ると妙な首輪をしているではないか..鈴はそれにあるらしい。ふむ..どれ、と離れるでもなくそこに居直った犬の首輪を掴んでグイと引き寄せた。

それは白い犬だった。サイズは立てば私の腰下くらいか、中型犬というのか。逆手に握ってたぐり寄せた首輪を見ると文字が書いてある。住所らしい。メガネを外していたので細かくは読めないが、奥多摩町XXXX小林とあった。飼い主から逃げてきたのか?が、首輪は二本あり、奥の首輪からワイヤーが20cmくらい飛び出ている。ん?罠から逃げたか?が、よく見るとワイヤーの根元には黄色いテープを巻いた小さな箱がある。J-Waveの鳴っているFMラジオに一部ワイヤーが掛かったときにザザッとラジオに雑音が入った。どうやら電池が生きてる電波発信機を付けているらしい。なんだこいつら?飼い犬か?
反撃しないので手を離して放免してやったが、逃げると思いきや、なお寄ってくる。バカ、やめろよ、来るな!と、Bivy脇に置いてあったTiGのCFポールで犬の背を打ち据えた。低く屋根を張っていたので大きく振り上げられない。二度三度叩いたが、やっぱりちょっとだけ悲しい目をして、少し腰を低くするだけで逃げてくれない。とにかくこっちが体勢を整えられる距離の外に出て欲しい。ポールの先端ゴムを犬の腰に当てて、力任せに押したが2,3歩よろめいただけで、やはり動かない...
少し間合いが出来たので上体を起こして辺りを見ると、いつの間にか、後から来た一頭が先の一頭と反対側、1mもない距離に丸く寝そべっているではないか。をっと、いつのまにか背後を取られていたとは。こやつら、味なことをする。目を戻すと先の一頭も丸く寝そべりこっちを見ている。私は二頭に挟まれた格好だ。

ふむ。とりあえず事態は理解できてきた。
第一、こいつらに敵意はなさそうだ。
第二、こやつら飼い犬で、普段から手荒い扱いには慣れてる感じ。
あの悲しげな媚びた目は普段から頭を殴られた時に上目遣いで飼い主に見せる表情なんだろう...
しかし、なぜかこんな山の中に鈴と無線機を付けて?首輪はぴたりとしていて少し窮屈そうだ。どうせならブランデーの樽でもお願いしたい。
発信器は小さく、これではGPSは付いていなさそうだった。アマチュア無線のFoxハンティングの要領で3素子くらいの八木アンテナを使って探す用と見たが、犬の行動範囲の研究用か?
ま、ともあれ再び数秒の静寂が訪れた。とりあえずは平和だ。

改めてメガネを着けて二頭を見た。最初の一頭は白色なのでシロと呼ぶ。後のはチャだ。やれやれと思った時、シロが立ち上がり、クンクンと鼻で落ち葉をかき分けながら私の方に寄ってきた。シロが動けばチャも立ち上がり、しきりと焚き火の辺り、飯を食った辺りの落ち葉を鼻で掘っている。枯れ葉を掘りながら何か期待するげな目をこちらに向けるシロ。ああそうか、こいつら腹が減っているんだ...枕元には食いかけのトレールミックスが置いてあった。慌てて口を折って枕の下に押し込むが、シロは目敏い。枕の辺りに鼻を突っ込んでくる。またシロの頭を掴んで押し戻す。そんなことを何度か繰り返した。

シロとチャは何を食ってこんな山の中にいるんだろう。アバラが浮き出て痩せている。脂肪は付いていない分、腰から足への筋肉が浮き出て見える。精悍とはチョト違う。やつれだ。なんやらナウシカに出てくる半分溶けかかった巨神兵というか、もののけ姫の冒頭に出てくる狂った巨大猪の溶けた筋肉の印象だった。
チャは私との生物的な限界距離を保ち、奴はこっちにはあまり関心をもせずに辺りをクンカクンカと嗅ぎ廻っているのに対し、シロときたら私の髭に飯の臭いでも付いているか?私と食い物が興味の対象のようだった。二頭は目つきが違う。チャは目の中にしっかりした光を持っているのが分かるが、シロのそれは半分溶けかかって虚ろに思えた。空腹と寂しさで半分狂いかけているんだろうか。
シロを押し戻しながら困ったな..と思った時、シロの視線がキッっと斜め向こうを向いたその時、シロが猛然とダッシュして走って行った。それにつられてチャも飛び上がって走る。乾いた縦走路を軽いが逞しい躍動する足音が遠ざかって行った。
あれは何だったんだ?
再び私一人になって考えた。ああ、あいつら猟犬なのかもしれないな。どこかで飼い主がキャンプを張っているのを退屈で逃げ出してきたのか?私は遊ばれていたわけだ...ヤレヤレと思ったが、危害は去った気がしたので再び寝ることにした。
遠くでウォォォーと犬の遠吠えが聞こえた。シロだな...バカめ!

トレールミックスを防水袋に移し、安心して体を横たえて、さっき起きた事を考えているうちに、うつらうつらしてきた。さて寝るかなと思ったら、だ、またダダダと駈ける音がしたと思ったら、だ、...シロが再び近くでガサガサやりはじめた。さっきの拳固を忘れ、さっき叱られた時より距離を詰めて寄ってくる。きっとシロは物覚えが悪いのだ。ガフガフと言いながら、まだ諦めもせずに私の近くを漁っている。枕元に置いたラジヲも踏みつける。お構いなしの傍若無人ぶりに呆れていると、キッっとシロの目が光った。
あ、ヤバイと私も手を伸ばす。さっき外してラジヲの横に置いたメガネめがけてシロが噛みつくのと私の手が伸びるのが同時だった。メガネの半分をシロが噛み、半分を私が握る。ヲイヲイ、やめろよ、壊れるよぉ、力を抜けよ...聞き分けがない犬にウラァ!と大声を出してみても、そんなの慣れっこなシロは動じない。壊れるよぉ..とっさに私は片肘着いていた手でシロの顎を思いっきり握り、ヤツの口をこじ開けにかかった。シロも本気じゃなかったんだろう、数秒も思いっきり握力を掛けたら少しだけ口を弱めてくれた。その隙にメガネを引っこ抜き、唾液でベロベロだが、そのままBivyの中に放り込む。全く油断も隙もない奴だ。一方、チャはと言うと、そんなの横目で見ながら、ちゃっかり私の横で丸くなっている。手を離されたシロはまだ諦めずにクンカクンカと鼻を落ち葉に突っ込んでグルグルやっているが、やがてこれも少し離れた所に丸まって小さくなった。
ん?こいつらヒト恋しいのかい?

夕食で使ったビニール袋は3重に密閉してあったはずだが、食いかけのトレールミックスが出ていたのは失敗だった。野生に対する食料の管理レベルが統一されていなかったのは私のミスだ。本来なら、寝る場所のずっと手前で夕飯を済ませ、なお歩き、食った臭いから離れたところにキャンプを張らなければならない。焚き火とラジオで野生動物に私がここにいることを示していたつもりだが、全ての警戒レベルが整合し徹底していなかったことを反省した。
犬に気付かれたとなると熊なら尚更、もしかしたら森中の噂になっていたのかもしれないな。
以後、奥多摩では食い物はAloksakを二重にして寝床から離して木にぶら下げることにする。そうだ、URSACKを買わないと...

犬共の写真を撮ろうと思ったがカメラは食料と同じ防水袋に入れてある。開けるとシロが煩そうなのでやめた。
幸いzzz_bearさんによって1週間前、同じ尾根のだいぶ下で撮られた写真があるので、許可を得てリンクを張らせてもらう。

これはチャだな。一週間以上前から居るのか?半ば野生の飼い犬はヒトや火を恐れる感覚がないようだ。かえってヒトの近くに寝ることで安心するのだろう。野に放たれてヒト恋しく遊んで欲しかったか...少しの哀れを感じたが、基本的には放し飼いな訳で全く迷惑だぜ、奥多摩・小林...犬が寂しがってるよ!
軍曹からもらったコメントによると、猟期前に猟犬は山に放たれるとのこと。猟犬も飢えて野生を補充するのだろうか。なら私と同じか...

さて、私の体温を感じて近くで丸まる2頭の猟犬、時々頭をもたげたり、遠吠えしたりもする。シロの遊び癖には辟易だが、暇で甘えてるようだから大目に見てやる。どうやら主従関係は成立しているようなので、二頭の番犬を得て、これはこれで熊除けになるからラジオのスイッチを切った。
寝る!こんなアホ犬の遊びに付き合っている暇はない。
その後もシロとチャは何度か遠征しては遠吠えし、私の所に帰ってきてはガサガサと安眠の邪魔を楽しんだ後で寝ていたようだ。何と、チャはイビキも掻く。
いつしか私の意識も飛んで、ん!と、眩しさに目を開けると、東の尾根が赤く染まって太陽が現れていた。その時にはもうそこにはシロもチャも居らず、丸まって寝た落ち葉の痕跡すら見あたらない。奴らも仕事に行ったかな?

昨日のメガネ、Bivyの中に放り込んだままだったのを引っ張り出して日にかざして見てみた。ベッタリの唾液が乾燥している。こりゃ萎える...拭いていて、おやと思い、付いている繊維を擦ってみたが取れないではないか。何度拭いても。それは繊維ではなく、稲妻形に刻まれた何本かの線だった。やられた。シロよ、レンズに歯を立てやがったな。傷のレンズの眼鏡を掛けてみたが、傷が目玉の前でぼんやり見える。ああ、これは気になる頭痛になる。レンズを換えなくっちゃ、これじゃ仕事で使えない..
朝日を見て、シロとチャの居ないのを確認したらまた眠くなった。あいつらのせいで寝不足だ。
昨夜は汗で濡れたまま寝たのだが、最初は冷えたが、目覚めた時にはすっかり乾き、フカフカのポカポカの心地よい寝床になっていた。ああああ、キモチいい...もーどーでもいい。と、次ぎに起きたら8時過ぎになっていた。既に日は高い。仕方ないから温い寝床を出て歩く準備をした。
獣が嫌うかと思った焚き火跡だが飼い犬には通用しなかったようで、ストーブはチャに蹴られたらしく五徳が遠くに飛んでいた。トホホ...

さて飯を食うのは面倒だから省略。あたたかく寝たのだから昨夜の炭水化物の残りが体の中に残っているだろう。飯は歩きながら行動食で済ますことにして、少し湯を沸かしてKuksaにコーヒーを作った。以前、コメントで紹介してもらった本「遊牧・トナカイ遊牧民サーメの生活」にはよくKuksaが登場する。彼らは厳冬の北欧の自然の中でKuksaを携え、ウオッカを入れたコーヒーを大量に飲み、解体したトナカイの脊髄を煮込んだヴイオンを鍋からKuksaですくって飲む。なるほどそんな形に出来ている。

撤収に掛かったが、この夜の空気は全く乾燥しており、落ち葉に敷いたシートには水滴一つ付いていなかった。冷涼、乾燥、落ち葉..あのアホ犬共さえ来なければ完璧なキャンプだったのに。寝床を撤収し、完全燃焼の白い灰を散らし、除けた落ち葉を戻して復元した。
珈琲を飲み乾し出立し歩いていると、遠くで犬の遠吠えがした。おや、シロか。仕事かえ?


長くなった。
その後、長沢背稜を歩き、イモノキドッケで三峯からの道に出会い、雲取山荘から頂上を巻いて鴨沢へ降りた。
快晴の連休最終日だが人は少なく山の紅葉は美しかった。
翌日、電車の中で女性二人の会話が耳に入ってきた..高尾のことらしい。「もー人人人でぇ」「下のおそば屋さんでも行列よぉー」「ヘー」ということだったらしい。季節的に、さもあらん。

装備と計った気候については次の機会にUPする。



月曜に眼鏡屋へ行った。レンズ交換で1.3万円、
奥多摩の小林さん、半分で良いから払ってくれるかい?
「登山・キャンプ」へ+1Point..Ckick!

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by ulgoods | 2007-11-28 13:01 | 山行
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